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【小論】ブランド考

  • 2013.03.01 Friday 11:04
 仕事柄、メーカーの直接的な批判は避けているが、今回の騒動はメーカーにとっても消費者にとってもとても優れたケーススタディになりうると思い、備忘録を兼ねて書き留めておく。



 三洋電機(SANYO)が開発した「エネループ」は、



(1) エネルギー+ループという、繰り返し利用できることを想起させ、しかも濁音や破裂音を使わずに柔らかい語感で構成した絶妙なネーミング



(2) 曲線(円)を基調とし角を配した絶妙なロゴと、乾電池としてはおそらく初めてとなる白の本体色を採用し、どこからでもエネループであることが判る絶妙な意匠(現在は白以外の色も採用されている)

三洋電機がみせるエネループのデザインへのこだわり



(3) 自然放電が少なく、充電済みで売られた商品がそのまま利用できる利便性(メーカーとしてはエネルギー容量や繰り返し利用回数なども訴求したいところだろうが、ユーザーにとってはすぐに使えるというところこそが一番わかりやすい)



といった特徴を持った二次電池である。



 ところが、その三洋電機は2008年11月にパナソニックに買収されて子会社化された。買収当時、エネループのユーザーからは、パナは自社の二次電池(エボルタ)を売りたいがためにエネループをやめてしまうのではないか、あるいは、エボルタブランドに吸収・統合されてしまうのではないか、といった懸念の声が上がったものの、一昨日までは平穏無事にエネループブランドは存続していた。



 ところが昨日になって、パナソニックは、自社ブランド化したエネループ製品を発表した。ウリは繰り返し利用回数の向上(1800回→2100回)である。発売は4月26日。



 この新しい製品がtwitterや2chで物議となった。槍玉となったのは「Panasonic」ロゴを全面に押し出した新パッケージデザインである。なじみのある「eneloop」は片隅に追いやられてしまっていて、ひとめ見ただけでは何の電池か判らない。







 この新デザインに対する批判の声をいくつか拾ってみると、



・自分が欲しいのはパナソニックの電池でもパナソニックのエネループでもない。エネループが欲しいのだ。



・買収した側の傲慢さが感じられる



・エネループというブランドが損なわれた、悲しい



・ユーザーの気持ちやブランド価値が判らないからパナソニックは赤字になる



・これがパナではなく(旧社名の)「ナショナル」だったら許せたかも



 なかには、



・少年ジャンプと書いてあるべきところに集英社って書いてあるようなもんだ



という的を射た一言もあった。



 反応の詳細は「エネループ デザイン」などのキーワードでインターネットを検索するとたくさん出てくるので参照されたい。



 ひとつの製品の意匠を変えただけで、ここまで批判や拒絶反応が出ることは珍しい。ひとついえることは、パナソニックは、エネループを支持してきたユーザーの気持ちを完全に見誤った(理解すらしていなかった)ということだ。エネループの開発元がパナソニックだったら、どうデザインを変えても文句は出なかっただろう。買った側と買われた側のパワーバランスが如実に示されていることに対する嫌悪感も大きいのではなかろうか。



 さて、ここからは完全な推測になるが、



・パナの担当者には今回の騒動は届いている

・「一部のネットユーザーが騒いでいるだけ」という認識で沈静化を待つ

・一部の担当者はユーザーの声を理解しているだろうが、ブランドの統一を上から指示されている以上、担当レベルとしてはどうしようもできない

・経営幹部には一切報告されていない



のが内部の実態ではないかと思う(繰り返すが勝手な推測である)。



 個人的にはパナソニックは貴重な学習機会を得たと思っている。お客様の声はきちんと届いていますよ、というメッセージを出せる貴重な機会である。



「エネループブランドがそんなに愛されているとは認識しておりませんでした。初回生産分は新デザインとなりますが、今後の生産ではPanasonicロゴは控え目にして元のデザインに戻します。パナソニックはお客様の声をいちばんと考えます。」



などと発表すれば、企業イメージもロイヤリティも上がる。次はパナの製品を買うよ、という消費者も増えるかもしれない(増えないかもしれない)。



 今はメーカーと消費者がネットワーク上で直接つながる時代である。ユーザーの失望や批判を放置するのか、それともなんらかの対応をするのか、パナの判断を多くの人が注視している(何の対応もしないだろうと予想しているが)。



 慣れ親しんだブランドやデザインというものが、ユーザー(消費者)にとって大きな価値を持っているということが、あらためて認識させられた今回の騒動。また、考えに考え抜かれた絶妙な意匠があっけなく消えていく瞬間を目撃する機会となった今回の騒動。何年かのちにはマーケティングの教科書に載るのではなかろうか。もちろん成功事例としてではなく。





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